教え上手のための聞き上手
カテゴリー:ブログ
投稿日:2022年12月25日(最終更新:2022年12月25)
自分史作成サービス『親の雑誌』は「聞く」ことにとことんこだわって作られています。
弊社株式会社こころみは、この「聞く」技術を活かして、『親の雑誌』をはじめ様々な事業を展開しております。
この「聞く」技術は、公私ともに様々な場面で役に立つと思っているのですが、特に実感できるのが、人に「教える」ときです。
私、自分の子どもだけでなく近所の中高生に数学などを教える機会がしばしばあります。幸いなことに「成績が伸びた」と言ってくださる方がいるので、誰か(特に若い世代の方)の人生に少しでもプラスになることができるのなら嬉しいことだなと思いお引き受けしています。
そんな中、どうやったら上手く教えられるかを考えることが多く、一つとても参考にしているのが、LINE株式会社の青田努さんがシェアされていた以下のまとめです。
一応、自分でもツイートしておこう。「あれうちの会社の壁に貼ってありましたよ」とか「チームのSlackで流れてきました」とか教えてもらって、少し恥ずかしいけど広まっているようでありがたい。 pic.twitter.com/kXTEWsRZPD
— 青田努 (@AotaTsutomu) January 31, 2019
これは本当に素晴らしいまとめなので、本当に全ての方におすすめします。
この中で「相手の前提となる知識や経験を確認する」「相手がわかりやすいように、伝える順番や展開を工夫する」「相手が処理できるように伝える情報量をコントロールする」「相手の理解が追いつくスピードに調整して話す」等と、相手のことを理解しながら進めることがポイントとして書かれています。つまり、「教え方がうまい」というのは、「話し方、説明の仕方が上手い」だけではなく、「相手を理解し、相手に合わせる」ことが重要であることがわかります。
この「相手を理解する」ということは、できる人にとっては自然とやっていることかもしれませんが、当たり前にできるような簡単なことではありません。
私たちが『親の雑誌』で用いる「聞く」技術は、「相手を理解する」ためにとても有効な方法であり、そのため、人に「教える」ときにもとても重要となります。
今回は、「教え上手のための聞き上手」と題して、人に何かを教える時の役立つ「聞く」技術について考えてみたいと思います。
■教える側と教えられる側
教える側と教えられる側という場面を考えると、例えば、家庭教師が子どもを教える、会社の新人が先輩に教えられる、部活動でコーチが生徒を指導する等、基本的に、教える側の方が立場や経験が上にある状態です。
ではその状況で、教える側が、例えば「どこまで理解してるの?言ってみて」と言ったとして、教えられる側はどう感じるでしょうか。さすがにちょっと怖いですよね。
教えられる側は、立場も下で、経験や知識もまだ足りないので、やはり、緊張もあり、怖さもあり、警戒もあります。
特に子どもが何かを教えられる場面では:
・子ども自身が、自分はよくわかってないと思ってるので、「叱られるんじゃないか」「ちゃんとやってないからだと言われるんじゃないか」と警戒がある
・習いたての分野は特に、自分が何がわかってて何がわかってないかもわからない。
・自分がわかっていることがあっているのか、間違って理解しているのかもわからない。
なので、「何がわからないの?」「どこまで分かってる?」などと聞いてしまうと、子どもは「叱られている」「詰められている」と感じて、何も言えなくなってしまいがちです。
でも教える側としては、青田さんの上記のまとめにもあるように、どこまでわかっているのか(前提となる知識や経験を確認する)、どのように理解しているか(相手のわかりやすい順番や展開を知る)、理解が追いついているのかを把握することが大事なのです。
では、どうしたらよいのでしょうか。
ここでまさに「聞く」スキルが活かされます。
■まず、その人を理解し、信頼関係を得る
まず最初に重要なのが、その人を理解し、信頼関係を得ること。
子どもに教える場面で考えると、子どもが自分に対して、わからないってことを抵抗なく言えること。そのために、「この人には、わからないことも聞ける」「聞いても怒られないし、わからないってことを理解してもらえる」と感じてもらえることが重要です。
なので、まず最初にやるべきことは、わからないことをわからないと言っても大丈夫、説明聞いてもまだわからない部分を抵抗なく質問できる、この人は自分のわかってること・わからないこと・わかろうとしていることをちゃんとわかってくれている、という信頼関係を作ることです。
そのためのとりたい姿勢は次のようなものが挙げられます。
受容的態度
うまい人は
・わかっていないことをそのまま受けとめる。
・何がわかっていて何がわかっていないかがわからないことも受け止める。
・わからないこともそのまま受け止め、「大丈夫だよ、それでいいよ」と受け止める。
まだまだな人は、
・できていることは誉めるが、できていないことは叱咤する。(条件的に受容する)
「ちゃんと勉強しないとだめじゃないか」
共感的理解
うまい人は
・問題の解き方だけでなく、相手の感情、特に不安や葛藤を理解して、そして理解していることを伝える。
・わからなくて不安なこと、それでも頑張ってわからないって言ってみた、その気持ちを理解し「ありがとう」と言える。
(相手が「わからない」と言ったときに)「いいタイミングで質問してくれたね、ありがとう。いい機会なので、この部分の考え方をもう一度整理してみよう」
まだまだな人は
・問題の解き方に目を向け、相手が今ある感情に目が向かない。
(相手が「わからない」と言ったときに)「どこがわからないの?」
自己一致
うまい人は、
・自分自身が心理的に安定していて、そのような自分を受け入れている。防衛的になったり、虚勢的にならず、率直な気持ちと態度で相手に向き合えている。
・相手の成長に意識を向けられている。自己満足、自己承認欲求にとらわれていない。
まだまだな人は、
・自分が教えてあげている優越感を感じる。(ある問題が解けた時に、「じゃあこれは解けるかな」と難易度を上げた問題を出して、相手をつまづかせる)
・相手が解けないことにいらだつ。「この前も説明したよね」
自己肯定感を育む
うまい人は、
・褒めるより感心する。「えらい」よりも「すごい」
・結果を評価するより、行動を認める。「100点とってえらいね」より「今回すごくがんばったね。」
・できてない教科・領域の指摘をするよりも、できている点を見つける。
まだまだな人は、
・足りない部分を指摘する。「92点、おしかったね。この問題できてれば100点だったね。」
・できなかった教科・領域に目を向ける「理科、社会が厳しいね。もっとがんばんないとね」
興味・関心
上手い人は、
・何より相手のことを理解しようと思い、相手の成長を願うこと。そしてそれを態度に出すこと。
まだまだな人は、
・合間にスマホを見たり、時間を気にしたりする所作をする。
名著として知られる「7つの習慣」に書かれている第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」がまさに同じことを言っています。相手に何かを伝え、理解してもらうためには、まず相手を理解し、信頼を得ることから始める必要があるのです。
もしあなたが何かを人に教えてもらう時に、教えてくれる人に対して「あー、この人、私に興味ないのかな。」「この先生、全然わかってくれない、、」「この先輩に言っても伝わらないなぁ。。」と感じてしまう相手だったら、教えてもらえる気がしないですよね。
■次に、課題を把握する
次にやることは、
・何を理解できていて、何が理解できていないのか
・どのように理解しているのか(頭の中でどのような構造として整理されているのかを知る)
・どこまで熟練しているのか
を把握することです。
何を理解できていて、何が理解できていないのかを把握する
例えば、数学の問題で「あるクラスに全部で男子と女子あわせて30名の生徒がいる。男子には2枚ずつ赤いカードを配って、女子には3枚ずつの青いカードを配ったところ、青いカードが赤いカードより10枚多くなった。男子の人数は何人か答えよ」というような問題があったとします。
このときに、この問題を解くためにどのようなステップが必要になるか想像します。
1. この文章の内容が理解できているか。
2. この文章の表す状況が想像できているか。
3. この文章の表す状況を数式に表せるか
4. わからない人数を x とおくという概念があるか
5. 表わされた数式が方程式であることが理解できるか
6. 方程式を解くことができるか
7. 方程式を解いた x の解が何を表しているのかわかるか
8. どのように答えるのか(○人)わかるか
のように、この問題一つを解くのにも数多くの点を理解している必要があります。
しかし、相手に「どこまで理解してる?」と聞いても、相手にプレッシャーを与えてしまうだけですし、かつ、相手も自分がわからないことがわからないので、的確に答えることはできません。
まずは一緒に解きながら、その子の表情やペンの動きを観察しながら、その子の言葉を聞きながら、どこが理解できてて、どこが不明瞭なのかを探ります。
数学の問題としては、6 の「方程式を解く」がメインと思いがちですが、つまづくポイントは人それぞれです。それを把握することが大事です。
最初から手が動かない場合などは、1~2 の文章から状況の把握の点でつまづいているかもしれません。そのような場合は、音読してみて、人やモノを一緒に想像してみて、相手の表情やリアクションを見ることも必要かもしれません。
■さらに、理解の構造を知る
上記で、「理解できている」という場合も、その理解の度合いとして、その理解がきちんと整理されているかを確認することが大事です。
日経ビジネスの記事でこのような問題がありました。
3行ほどの一文の文章を理解して回答する問題に対して、記事内の問2で言えば、高校生が35%、62%が解けなかったのです。これらは、記事内にも書かれているように「文章の構造を把握すれば、正解はたやすいように思える」ものです。
つまり、文章を読めたとしても、そこから「その内容を構造的に把握する」ことは一段難易度の高いことと言えます。
先述の数学の問題の例でいえば、クラスの中に、男子と女子がいる状況を想像するときにどのような構造になっているかを知るように努めます。
例えば、構造的に把握できていれば答えられる・把握していなければ答えにくい質問をしてみます。
「クラスの男子がもし12人だとしたら、女子は何人になるかな?」
「女子が18人だとしたら、青いカードは全部で何枚になるかな?」
わかる人には当たり前のようにわかることでしょう。しかし、もしこれらがスムーズに答えが出てこない場合は、もしかしたら男子女子がただ漠然といる様子を想像しているのかもしれません。文章を読めたけど、その内容が構造的に理解できていない状態かもしれません。
ここまでで、どこまで理解できて、どこが理解できていないのか、どのように理解しているのかを把握します。
次にその領域をどのように伸ばすのかを考えてみます。
■どこまで習熟しているかを知る
楽天大学学長の仲山進也さんが習熟の段階をまとめたこのフレームワークが実感もあってとてもわかりやすいのでおすすめです。
友人のFBページにアップされていたのだが、「知る」と「わかる」、「できる」と「している」の違いが良くわかる図。 pic.twitter.com/9CpEd6GSWf
— inui.R (@inuicpa) April 10, 2018
(このフレームワークの原典はこちらの書籍にあります。仲山さんの書籍はいくつもありますが、どれも人とチームの成長について学べるものばかりでとてもおすすめです。)
たとえば、方程式を解くという行動にしても、習熟の段階としては、次のように進みます。
・学校で習った(知る)
・練習問題を解く(やってみる)
・意味がわかる(わかる)
・練習問題が普通に解ける(できる)
・応用問題や別の問題で出てきても普通に解ける(している)
今、問題ができているとしても、このどの段階までたどり着いているかを把握します。
これは、試験の解答用紙に書いている内容を見たり、問題を解いている様子を観察したりすれば、よくわかります。「知る」「やってみる」の段階ではほとんど手が動かせないですし、練習問題はなんとかできるけど応用ができないなどは「できる」の段階でしょう。
■そして課題を解消するために、一歩ずつ前に進める
苦手にしている人にとっては、「わかる」に至っていない、または、「やってみて」いない、ということもよくあることだと思います。その場合は、まずは行動して「やってみる」こと、そして、その背景や目的など気づきを得て、「わかる」に至るところまでを目指します。
「わかる」に至れば、さらに技術を身につけ、回数を積み重ねて習慣化していくことが大事になりますね。
やはり、自分の武器として使える、つまり、受験で役に立つ、仕事で発揮するためには、当たり前のように「している」レベルまでなりたいところです。
■人に教える時に注意したい点
できはじめたときに、すぐに難易度を上げない。
教える側としては、できる問題をただ解いてもらうよりも、できない問題にぶつかり、それをできるように克服してほしいと思いがちなので、できるようになるとすぐに少し難易度の高い問題を進めがちです。しかし、難易度が上がって、その度につまづくと、なかなかやる気が削がれてしまうのです。元より、何度も反復して練習するということ自体、つまらない作業になりがちです。だからこそ、できる問題を何回もやって、少しでもスピードが上がった・ミスが減って点数が上がったという達成感の積み重ねが重要です。
陰山英男さんの「百マス計算」が良い例です。百マス計算とは、シンプルな四則演算を10×10の100マスに回答していくシンプルな計算問題です。とてもシンプルなため、これを繰り返すうちに、完了タイムどんどんが上がります。それによりやる気を保つ、そしてそのやる気によりさらに次に進めるようになります。
相手のできないことを「教えてあげている」という自分の中の優越感に要注意
兄弟や姉妹で上の子が下の子を教える時や、会社内で年次の近い先輩が後輩を教える時などにありがちなのが、教える側が「優越感」を感じてしまうこと(本人は、そんなつもりではない、と言うでしょうが。)そのとき、相手は「劣等感」を感じてしまいます。上の「まず、その人を理解し、信頼関係を得る」で書いたように、まず相手との信頼関係を得ることと相手の自己肯定感が高まるために何をしたら良いかを考えましょう。
優越感を感じた人がとりやすいのが、相手が何か問題を解けた時に、「じゃあこれはできるかな?」と少し難易度をあげた問題を出して、相手ができないところを見て「教えてあげる」ことです。
それよりもやるべきことは、問題ができたことを認めることです。「おお、すごい、できたね!」でいいのです。
自然と手が動くレベルまで繰り返す
目指すところは、普通に「している」レベルになること。
特に何も考えなくても右足左足を出して歩ける人にとっては、歩きながら風景を見たり、考え事をしたり、音楽を聞くことも簡単なことでしょう。でも、そこまで至るには何度もバランスを崩して転んだり、よたよたふらついたり、という幼い頃の練習から始まります。「できる」ようになったことは、それが「当たり前にできる=している」レベルになるまで繰り返しましょう。
勉強も仕事も、反復して経験するうちに「当たり前にできること」が広がり、それを土台としてまた次のことができるようになります。
常に、学習だけでなく、感情の把握とケアにも注力する
人に何かを教える時に、どうしても「何を教えたらいいか」「わかってもらうためにどうしたらいいか」に意識が向きます。それ自体はよいことです。しかし、学習を続けるには、心も体も良い状態を保つ必要があることは想像に難くないでしょう。特に受験生のように、期限が決まっている中で成果が求められる状況というのはプレッシャーも重く、ストレスも強くなります。大人でも、新しい環境で知識を身につけつつ成果を求められるような場面では、心が疲れてしまうことはよくあります。
相手の様子、特に感情がどのようにあるかを気にかけつつ、教える時にかける言葉が、相手にとって背中を押してプラスになる言葉なのか、劣等感を感じさせマイナスになる言葉なのかを考えて、言葉を選びたいものです。
終わりに
今回は、教える時に役立つ「聞く」スキルについて考えてみました。
話を聞き、ありのままを受け止め、信頼を得て、さらに聞き、観察し、理解してから、伝え、教える。そのような順番がちょうど良いのかなと思います。
年の瀬も近づき、受験生の皆さんにとって、とてもとても大事な時期を迎えようとしています。
全ての受験生とそのご家族にとって幸あることを願っています。