生から死への船出は、楽しくにぎやかに! 地域のみんなが集う介護施設「はっぴーの家ろっけん」に行ってきました
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投稿日:2018年11月13日(最終更新:2024年12月09)
10月のある日、神戸市長田区にある介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」(以下、はっぴーの家)に行ってきました。 きっかけはこの記事。
「毎週パーティー三昧!? 前代未聞の介護付き住宅「はっぴーの家」に行ってきた」
百聞は一見に如かず、見学にうかがいました。最近メディアへの露出も増えてみなさんお忙しいとのことでしたが、見学当日はケアマネージャーの岩本茂さんがあたたかく迎えてくださいました。途中、代表の首藤さんも加わって、はっぴーの家に込めた思いや地域全体の幸せのための取り組みなど、とても有意義で刺激的なお話をお聞かせいただきました。今回は、はっぴーの家で見たこと、聞いたこと、感じたことをご紹介します。
① ふらりと立ち寄れる、みんなの居場所
まずは、はっぴーの家の外観から。看板がないとは聞いていましたが、本当でした。施設名の掲示がなく、老人ホームや介護施設というよりも公民館のようです。誰でもふらっと入ってよい雰囲気。ガラスの引き戸を開けて建物に入ってみると、ものすごーくオープンな雰囲気が漂っていました。 一応、来客者名簿もありますが、岩本さんに「どうぞ」と笑顔でうながされ何も書かずに中へ。1階は広いリビングになっていて、10ほどあるテーブルでは事務作業をするスタッフの方もいれば、お茶を飲んでいるおばあちゃんの姿も。さらには、ランドセルを背負った女の子がふらりと入ってきて、大人たちと言葉を交わしています。赤ちゃんをおんぶしたお母さんも来て、本当に街の日常に溶け込んでいるんだな、と感じました。街のみんなが親戚や友人の家に立ち寄るようにふらりと訪れる、地域に開かれた自由な場所であることがわかります。初めて来たのにどこか懐かしい、とても居心地のいいはっぴーの家ですが、代表の首藤さんはもともとは介護業界の人ではないそうです。ではなぜ、はっぴーの家を作ったのでしょうか。
② 家族の絆を取り戻したら、長田の街が幸せになった
阪神大震災で大きな被害を受け、復興の進むエリアと古くからの街並みが残るエリア、2つの表情を持つ長田地区。首藤さんが生まれ育った六間道(ろっけんみち)は、昔懐かしい商店街があり人情味あふれるエリアです。街の高齢化が進み商店街も空き家が目立つようになる中、当初首藤さんは空き家を再生して街を活性化する事業を手掛けていました。
結婚して2人の子どもにも恵まれたころ、首藤家におばあちゃんの介護問題が勃発。もともと仲の良かった家族なのに、介護をきっかけに次第に家族仲が険悪になってしまいました。心を痛めた首藤さんは、一家で実家に戻ることを決意。せっかくならと妹さん一家も呼び寄せて、十数人の大家族で暮らし始めたところ、家族の仲が元通りになったのはもちろん、おばあちゃんにも笑顔が戻ったのだそうです。
大好きなおばあちゃんの介護を通じて家族の絆の重要性を再認識した首藤さんは、得意の空き家再生のノウハウを組み合わせて、「首藤家の拡大版」を作ろうと思い立ち、はっぴーの家ができたのです。「はっぴーの家は死ぬ場所やと思ってるんです」と明るく飄々とした表情で語る首藤さん。家族や近所の人に囲まれて、笑いながら死ねるのが幸せ。そして、「自分の子どもたちには、多くの人に出会ってほしい。人との出会いから人生を学んでほしい」という首藤さんの親としての思いも込めて、はっぴーの家は誰でも出入り自由で、みんなが幸せになれる場所を目指しているのだそうです。
そんな首藤さんのこだわりが、はっぴーの家の随所に現れています。驚いたのは、2階から5階までの居住フロアは階ごとにコンセプトが決まっており、全ての部屋のインテリアが違っているのです。壁紙が一面赤かったり、ヒョウ柄のお部屋もありました。「自分だったらどの部屋を選ぼうか」とワクワクしてしまいます。フロアの共用スペースにはなぜか卓球台が置かれており、なんだろう?と思ったら、これは遊びに来る子どもたちのリクエストに応えたのだそう。SNSで提供を呼びかけたら、知らぬ間に卓球台が3台集まっていたそうです。
もう1つ、首藤さんが大事にしているのが「日常であること」。多くの介護施設では、運営者がイベントを企画するなどして入居者が互いに仲良くなったり楽しんでもらったりするよう働きかけます。しかし、はっぴーの家ではあえてそれをやらない。「みんなで一緒に仲良くってやってたら、それは日常ではなくなるでしょ」と首藤さんは言います。「ぶらりとはっぴーに家に来て、誰ともしゃべらず、ただ座ってぼーっとして帰る。それでいいんです。日常って、そんなもんですよね」
ケアマネージャーの岩本さんが続けます。「はっぴーの家は出入り自由です。会員登録もなければ、来訪者の記録も取らない。外で遊んでいた小学生が、雨が降ったときに『どうする?ろっけん行く?』といいながらやってくる、そんな場所です」。
③ 違和感は3つあると気にならなくなる
放課後には遊びに来る小学生でにぎわい、多くの人が出入りするはっぴーの家。楽しそうな雰囲気ですが、子どもと高齢者が同じフロアにいてトラブルや苦情が出ることはないのでしょうか。そのことを聞くと、首藤さんは目を輝かせて「違和感はね、3つあると気にならなくなるんですよ!」と返してくれました。どういうことかというと。例えば認知症の人がリビングに1人いて、独り言を言ったりときに叫んだりしていると、その人に注意が向いて何かしてあげなければと思ってしまう。そこに外国の人が入ってきて通じない言葉で話しかけてきて、子どもがわーわー騒いで走り回ってたら、その瞬間に全てが気にならなくなる。「気にならなくなると、それぞれに居場所ができる。お互い、緊張感がなくなるんです」首藤さんにとってもこれは大発見だったそうですが、私も「これはすごい!」と思いました。
訪れる人には居心地のいいはっぴーの家ですが、働く人にとってはどうなのでしょうか。ケアマネージャーとしてはっぴーの家に関わる岩本さんによれば、「スタッフにも無理を強要しない」のがはっぴーの家の就労面での特徴とのこと。この夏、関西地方は台風や大雨で大きな被害が出ました。長田も例外ではなく、電車は全線ストップし近隣も洪水被害が予想された日があったそうです。そのときの判断はなんと「スタッフは全員、出勤せずに休み」。通常の介護施設では考えられません。岩本さんは続けます。「この辺りは古い家が多くて、近所のみなさん不安だったんです。そして、はっぴーの家の建物は鉄骨造。そこで、近所の人たちにここに避難してもらうことにしました。その代わり、避難してきた人たちに食事の配膳や入居者のお世話をお願いしました」。まさしく目からウロコ。街の人、入居している高齢者、働くスタッフ、みんなにとって無理がなく、日常として続いていく仕組みがはっぴーの家の特徴であり、その仕組みは単なる思い付きではなく、首藤さんの大きなビジョンと綿密に練られた戦略の賜物であることがよくわかりました。
④ はっぴーの家が目指す未来
長田という街に根差し、長田の人たちに愛されているはっぴーの家ですが、このオリジナリティあふれる運営を複数拠点で展開するのは難しいと首藤さんは考えているそうです。はっぴーの家ろっけんは1つの理想形として運営しつつ、今首藤さんと岩本さんは地域や介護スタッフ、利用者を包括的に取り込んだ新しい介護サービスを構想中とのこと。 「年を取ることは不幸なことではないです。僕はよくお年寄りに死生観を聞くんですが、自分の死について語ることで今をどう生きたいか、この先どうしたいかを人間は考えます。だから、死生観について聞いたあとは、お年寄りは生き生きするんです」。首藤さんのこの言葉が、深く心に残りました。 今回、はっぴーの家で首藤さん、岩本さんとお会いして、「世の中は仕組みと工夫でまだまだハッピーを増やす余地がある」と強く思いました。私たちこころみでも、「つながりプラス」や「親の雑誌」を通じてコミュニケーションで社会を明るくする取り組みをしてきましたが、今後ますますハッピーを増やす仕組みづくりに邁進しようと決意を新たにしました。
⑤ 最後に 自分史作成サービス「親の雑誌」も
家族のための自分史作成サービス「親の雑誌」は首藤さん、岩本さんにも大変おほめいただき、チラシを置いていただけることになりました。いつか入居者の方の「親の雑誌」を作って、はっぴーの家での生活についても語っていただきたいなと思います!
株式会社こころみ代表取締役社長 神山晃男