思い出の品を金継ぎで蘇らせよう
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投稿日:2021年06月09日(最終更新:2021年06月09)
祖父母の家を解体することになり、祖父母が残したいろいろな物を整理していました。祖父母の家には、祖父母の物だけではなく、そのずっと前に亡くなった曽祖父母の物もありました。私は曽祖母にもとてもお世話になったので、曽祖母が大切にしていた形見がほしいと思い、もらったのが「金継ぎしてあったお皿」です。金継ぎとは、陶磁器の破損を漆によって接着し、金粉などで装飾して仕上げる修理のことです。「金直し」や「金繕い」とも呼ばれています。
金継ぎには、以前から非常に興味があり、実物を見られたことへの感動もありました。しかし、布に包んで、棚の奥にしまっておいたら、他の食器を出したときに滑り落ち、見事割れました(涙)。
金継ぎをするチャンスを与えてもらったのだと、修理セットにしては高級で購入を躊躇していた初心者金継ぎセットを購入。ついに金継ぎする機会を得ました。前置きが長かったですが、今回は金継ぎの方法をご紹介します。
■金継ぎの手順
1、金継ぎの材料を購入する
2、接着剤で割れた皿を貼り合わせる。
3、はみ出た接着剤を削る。
4、金の粉とうるしを混ぜて、お皿に塗る。
今回、下に記載してある金継ぎセットを購入して金継ぎを行いました。注意事項として、今回の方法は、速乾性接着剤を使用するなど伝統的な金継ぎの方法とは異なります。また、口に触れる食器には使用はできません(セットで紹介されていた接着剤とは異なる接着剤を使用しているため)。使用するのは「合成うるし」という塗料で、漆器に使用されているうるしとは異なり、口に入れて安全かどうかは保証されていません。また、金の粉は、金ではなく、真鍮です。しかし、初心者が最初に取り組むには非常に使いやすいセットで、時間もかからず、うるしにかぶれることもなく、楽しんで金継ぎ体験ができます。
もしいつか、祖母からいただいた茶器を割ってしまったときは、次こそ本格的な金継ぎを行いたいと思います。割らないのが一番ですが、割れても使える方法があるということは、心強く、少し気楽に茶器を使えるのだと思っています。
1、金継ぎの材料を購入する
本屋さんで購入できる、『TJMOOL 大人のおしゃれ手帳特別編集 簡単!おうちで金継ぎ』を使用しました。金継ぎの材料を東急ハンズなどで購入しようかとも思ったのですが、この本は説明文がわかりやすく、写真も大きくて見やすかったので、初心者の一歩としてはこちらが最適と思い、選びました。次回以降は、東急ハンズか画材屋の世界堂の商品を検討したいと思っています。
この本には以下のものが入っています。
・合成うるし
・うすめ液
・金の粉(真鍮)
・銀の粉(アルミニウム)
・竹串
これだけだと欠けた皿の補修はできません。
追加で必要なものは以下のものです。
・接着剤(今回は、コニシのボンド、金属・ガラス・陶磁器を購入)
・紙やすり(今回は、耐水ヤスリの♯1000と♯1500を購入。1500を使用しました)
・小皿(100円均一で、2枚100円のお皿を購入)
です。
その他、カッターが必要です。また、消耗品として「マスキングテープ」「綿棒」を使用しましたが、なくても問題ないかと思います。
2、接着剤で割れた皿を貼り合わせる。
接着剤を混ぜ合わせ、割れた皿を接着します。接着剤をつける前に、欠けている部分があるかもしれないため、一度皿を組んでみましょう。破片がなかったり粉砕してしまったりしている場合は、樹脂などで欠けた部分を補う必要があります。今回はきれいに割れていたので、割れた部分を接着します。大きく割れた部分の接着はスムーズでしたが、皿の外側、小さく欠けた部分は同じ形にするのに苦労しました。
先に小さい破片同士を接着し、マスキングテープで固定。少し経ってから、破片と本体を接着しました。接着できたら、固まるまで待ちます。今回の接着剤では1時間ほど待ちました。
3、はみ出た接着剤を削る。
表面と裏面を見て、はみ出た接着剤を削ります(上図の透明接着剤が盛り上がっている部分)。接着剤をカッターで削り取ったあとヤスリをかけ、触ったときに割れていない部分とほぼ違いがないと思えるまで滑らかにします。絵皿にヤスリをかけて絵が傷つかないかと心配になりましたが、何の問題もありませんでした。♯1500などの目の細かい紙ヤスリであれば神経質になりすぎなくてもよさそうです。この削る工程がきれいに仕上げるためには一番大事なので、丁寧に時間をかけて行いましょう。両面を削って、約2時間かかりました。以下のように盛り上がった部分をなくします。
4、金の粉とうるしを混ぜて、お皿に塗る。
混ぜるためのお皿に、うるしと金の粉を同量入れ、うすめ液を1、2滴垂らして、竹串のとがっていない方で混ぜます。うすめ液によって、塗料が塗りやすくなり、すぐに固まることを防ぎます。絵具を水で薄めるのと同じ感じです。体に良くない匂いがするので、十分換気して行ってください。
竹串の尖っている部分に、作った塗料をつけ、皿のつなぎ合わせた部分に塗っていきます。同じ太さの方がきれいなのかと最初は思いましたが、私が修理したのは絵皿だったせいか、塗ってみると気になりませんでした。できれば絵を生かしたいと思い、絵に重なる部分は少し細めに塗ってみました。両面に色を塗るので、最初は完成後に見えにくい裏面から塗った方がいいのかもしれません。色が予定よりはみ出してしまったときは、乾く前なら綿棒にうすめ液をつけて、拭き取ることができます。全部塗り終わったら、乾かして完成です。2日くらいしっかり乾かしましょう。
傷があってこそ器は成長する
以前読んだ漫画に、「修理」と「修復」は異なるということが書いてありました。西洋でお皿が壊れたときは、壊れたことが分からないように完璧に直す修復を行う。それは装飾品としての鑑賞が目的だから。一方で、日本でお碗が壊れたときは、愛着のある食器なら何度でも使えるように直す。修理の目的はその機能を取り戻すことだから、「使わぬ器は器にあらず、傷があってこそ器は成長する」と漫画には書いてありました。
※参考資料「ギャラリーフェイク」第29巻「器くらべ」
実はこの皿を割ったのは私ではなく夫でした。私が大事に持って帰ってきた皿だったので、割ったときは顔面蒼白な雰囲気でしたが、私は金継ぎする機会をもらったことを結構喜んでいました。元どおりにはできませんが、やり直しができると思うと、心安らかにいられるものであることも、金継ぎを知っておいて良かったと思ったことです。
今回の欠けに物語があるように、金継ぎをしていると、以前はどうやって割れたのか、どうやって直したのか、その失敗と修正の物語を感じます。おそらく以前に金継ぎをしたのは、短くても40年以上前。曽祖父母のどちらかが割ったのか、幼い頃の祖父や父が割ったのか、この修理をしたのは誰なのか、真実はわかりませんが、想像が膨らみ、きれいなままだと感じられなかった物語を感じます。金継ぎをしていると、修理しながら創造もしている気持ちにもなります。継ぐほどにお皿に個性が出てきて、唯一無二のものになり、とても愛着が湧いてきます。夫も私もお皿の物語の一つになれたからかもしれません。
このお皿は電子レンジには入れられないので使いやすくもなく、一度欠けたので壊れやすく、今回の私の金継ぎでは食器として使うには安全性が不明なので食べ物を置くのなら皿の上に何かを敷く必要があります。利便性を取るのなら、金継ぎなどせずに、破棄して新しい皿を買うという一択です。でも、利便性よりも大切にしたいもの、例えば愛着とか歴史とか、そのほか何か面倒だけれど愛おしいと思うものを、曽祖父母が大事にしてきて、私もできればその気持ちを大事にしていきたいなと、このお皿を見ては感じています。
みなさんも、お皿やお椀などの食器や花瓶などを欠いてしまったら、金継ぎをしてみるのはいかがでしょうか。もし大事な物だったら、その食器から何か物語が見えてくるかもしれません。